大阪高等裁判所 昭和47年(ツ)8号 判決 1973年8月20日
上告人
高井理一
右訴訟代理人
南里和広
上告人
塚本サヨ子
右訴訟代理人
滝井繁男
被上告人
林明男こと
リム・ミヨング・ナム
右訴訟代理人
徳矢卓史
徳矢典子
主文
原判決を破毀する。
本件を神戸地方裁判所に差戻す。
理由
上告代理人南里和広の上告理由第一点及び上告代理人滝井繁男の上告理由一について。
一原審は、(1)「上告人高井は、昭和四三年三月八日に、昭和四二年一二月分及び昭和四三年一月分の各賃料を被上告人に対し弁済のため提供したが、被上告人は、賃料の受領の事務を執つていた小谷和子を通じて、昭和四三年二月分の賃料をも合わせて三カ月分を提供しなければその受領をしないとしてこれを拒絶した。」との事実を確定した上、
(2) 「右三月八日において履行期の到来していた賃料債務は、昭和四二年一二月、昭和四三年一月分及び二月分の三カ月分であるが、これは和解条項第六項(原審は、本条項を、「上告人高井に引き続き三カ月分以上の賃料の履行遅滞があつた場合には、催告することなく賃貸借契約を解除しうる旨を定めた条項」であると解した)に定める引き続き三カ月分以上の遅滞をした時に該当するものであり、上告人高井の提供したのは右のうち昭和四二年一二月分及び昭和四三年一月分であつたから、これら二カ月分の賃料の提供は、すでに履行期の経過した後であつて、しかも遅延損害金を付さないものであるから、債務の本旨に従つたものではない。」と判断し、
(3) 「被上告人は、上告人高井に対し、昭和四三年三月二三日到達の内容証明郵便をもつて、和解条項第六項に定める引き続き三カ月分以上の賃料の支払をしなかつた場合に該当するとして、本件賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。」との事実を確定し、
(4) 「以上のとおりであるから被上告人と上告人高井間の土地賃貸借契約は、被上告人の解除により終了したから、被上告人に対し、上告人高井は本件建物を収去して本件土地の明渡をなすべき義務があり、上告人塚本は占有建物から退去してその敷地の明渡をなすべき義務があり、被上告人の本訴請求は理由があるからこれを認容すべきである。」と判示した。
二引き続き三カ月分以上の賃料の履行遅滞があれば賃貸人は催告を要することなく賃貸借契約を解除しうる旨の特約に基づき、三カ月分の賃料の履行遅滞により賃貸人が契約解除権を取得した後(契約解除権行使前)、賃借人が三カ月分の延滞賃料のうち二カ月分の賃料の現実の提供を賃貸人にした場合、賃貸人が、三カ月分の延滞賃料全部を提供しなければ受領できないとして、右二カ月分の賃料の受領を拒絶したとき、賃借人は、右提供によつて、右二カ月分の賃料について履行遅滞の責を免れ、三カ月分の賃料の履行遅滞により賃貸人が一たん取得した契約解除権は消滅すると解するのが相当である。けだし、賃料債務は、各期の債務がそれぞれ一個の債務をなすものであり、三カ月分の履行遅滞により三カ月分の賃料が一個の債務に変化するものではなく、また、遅延損害金(その額は僅少である)を付加して提供しなかつたことや提供が賃貸人の契約解除権取得後になされたことは、右二カ月分の提供を債務の本旨に従わない提供と解する理由として不十分であるからである。
三したがつて、原判決は、右の点につき、法律の解釈適用を誤つたものであり、これが判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨は理由があり、その余の上告理由に対する判断を省略して、原判決を破毀し、さらに審理を尽させるため本件を原審に差戻すこととする。
よつて、民訴法四〇七条に従い、主文のとおり判決する。
(小西勝 常安政夫 野田宏)
<上告理由省略>